糖尿病が長期間に及ぶと、ものを写す神経の膜(網膜)の毛細血管も脆くなり、血液中の赤血球や水分が網膜に漏れ出して、網膜出血や網膜浮腫(水でふやけた状態)をきたします。
また、毛細血管がつまるため網膜の血の巡りが悪くなり、広範囲に血の巡りが悪くなると、血の巡りを改善しようとして血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)に代表される新生血管因子が分泌され、新しい血管が生まれます。
この新生血管は非常に脆くて容易に出血するため、眼の中にまで出血したり増殖膜ができたりして、最後には網膜剥離を起こします。
糖尿病による網膜の一連の変化を糖尿病網膜症といいます。
糖尿病網膜症は出血が数個しかない初期ではその進行が遅く、後期になるまで自覚症状がないため、定期的に網膜症の状態を把握する必要があります。
初期の治療は主に内科に委ねられ、血糖コントロールばかりでなく血圧や血清脂質のコントロールが網膜症の発症を予防し、進行を抑えるのに重要です。
後期になって新生血管が1本でも出現すると、その数は急速に増えてゆき、いくら血糖コントロールを行っても眼科的治療を行わない限り、2~6年で失明してしまいます。
治療は後期に至るまでに新生血管の発生を防ぐことで、視力に大切な中心部の網膜だけを残して毛細血管のつまっている周辺部までの網膜を、レーザー光線で破壊します(汎網膜光凝固)。網膜症が後期に至らなくても、中心部の網膜に浮腫(黄斑浮腫)(図1)が起これば視力は低下します。
この黄斑浮腫に対しては、抗VEGF薬の硝子体内注射やステロイド剤のテノン嚢下注射が良好な成績を収めています。