濃度1%のアトロピン点眼は以前から眼科で小児の屈折検査に使用されていましたが、シンガポールで行われた研究により、近視の成り立ちとなる眼軸長の伸長を抑え、近視の進行を抑える効果があることがわかりました(2006年)。
ただし、1%アトロピンを点眼すると散瞳や調節力の低下が著しく、点眼を中止すると大幅に眼軸長が伸長し、近視が急に進行するというリバウンドが起こるため、近視進行予防には臨床では使えませんでした。
ところが低濃度に調整した0.01%アトロピン点眼(以下、低濃度アトロピン点眼)を一日一回だけ投与しても、学童期(6~12歳)の子供に対して近視進行抑制の効果があることがわかり(2012年)、1%アトロピン点眼の中止で起こったリバウンドは低濃度アトロピン点眼では認められませでした。
低濃度アトロピン点眼にも軽度の散瞳(0.7mm)や調節力の低下(約1.5D)が起こりますが、学童期の子供にはほとんど自覚しない程度でした。
最近では香港の研究で、0.01%、0.025%、0.05%アトロピン点眼による近視進行抑制効果を4~12歳を対象に3年間調査した結果、アトロピン点眼の濃度が濃いほど、近視進行抑制効果と眼軸長の伸展抑制効果が高くなり、3つの濃度では2年後に中止してもリバウンドは起こりませんでした(2021年)。
当院での治療方針は、6ヵ月で−0.5D以内の近視進行であれば点眼をそのまま継続し、6ヵ月間で−0.5D以上の近視が進行すれば、0.025%アトロピン点眼に変更するか、オルソケラトロジーや多焦点ソフトコンタクトレンズに変更するか併用するかを検討し、近視が進行しにくくなる15歳~18歳ぐらいまでは治療を継続することをお勧めしています。
年齢の割に近視度数の強い子供は将来、病的近視になる可能性があります。
近視度数での目安として、5歳以下で−4.00Dを超える、6~8歳で−6.00Dを超える、9歳以上で−8.00Dを超える近視、あるいは眼軸長での目安として、6~8歳で24.5mm以上、9~12歳で26.0mm以上、13歳以降で26.5mm以上の近視です。
これらの子供には、治療初めから0.025%アトロピン点眼で開始することもあります。
低濃度アトロピン点眼は最近始まった治療のため手探りな部分が多く、保護者の方にも十分な説明を行い、慎重に治療を行っていきます。また、低濃度アトロピン点眼を使って治療を行う場合、健康保険が適応できず、自由診療になることをご了承ください。(当院で扱う低濃度アトロピン点眼は海外から医師個人で輸入し、GMP(医薬品製造管理および品質管理基準)準拠の工場で製造されています。)
来院当日は屈折検査を行い、保険診療になります。
低濃度アトロピン点眼による治療をご希望される場合は低濃度アトロピン点眼1本と翌日の検査代、翌日の診察代¥5,500と保険診療代をお支払いいただきます。
検査は毎回、屈折、視力、眼軸長測定を行います。