若い人は遠くから近くまで物が見えますが、これは眼の中にあるレンズの厚みが遠くを見るときは薄く、近くを見るときは膨らんで、ピントを絶えず合わせ直しているためであり、この働きを調節といいます(図1)。
その緊張が長時間持続すれば目の疲れを自覚します。
また、レンズの膨らみやすさは年齢と関係があり、子供の頃はいくらでも膨らんで目前でもはっきりと物が見えていたのに、歳をとるにつれてレンズが除々に膨らみにくくなり、30代でもかなり低下し、40代では手元が見えにくくなることを自覚します(図2)。
これらの要因から、コンピュータの画面を見ながら長時間行う仕事、例えば、端末入力やCADなどに従事されている方(VDT従事者)やスマートフォンを長時間見ている方は、経験的に30代ぐらいから目の疲れを訴えることが多いです。
また、遠視の方や、近視の方であっても必要以上に強い度数のメガネ(過矯正メガネ)を掛けて遠視化している場合、遠くを見ているときでさえ眼の中のレンズは膨らんでおり、その眼で近くを見ると普通の眼の人よりもっと膨らまないとピントが合わないため、筋肉は過度に緊張を強いられます(図3)。
メガネの度数が不適切かどうかを判断するには、視力検査の進め方が非常に重要であり、筋肉の緊張が入らないように、あるいはすでに緊張が入っているときには緊張を取りながら厳密に行わなければならず、このことはメガネを合わせる時にも最も気をつけなければならないポイントです。
その他の要因としては斜視があります。特に外斜視と外斜位をくりかえす間欠性外斜視は真っ直ぐな眼の位置を保つためには絶えず緊張しなければならず、程度によりますが多くは30代で眼の疲れを自覚します。
過矯正のメガネを掛けている、遠視である、斜視があるということがなければ、目の疲れを訴えるほとんどの方がVDT従事者あるいは携帯電話の画面を四六時中眺めているスマートフォン依存者で、 もしもそれらの作業をしていないなら、目の疲れは他にも考えられます。
見えにくい原因となる眼の病気がなければ、首の後ろ側にある首筋のこりや肩こりが原因となることが意外と多いです。この場合の訴えは、「目が疲れる」というよりどちらかというと、「目の奥が痛い」という表現に近いようです。
「首筋のこり・肩こり」の原因は様々で、副鼻腔炎や歯痛、顎関節症でも起こりますが、一番多いのは、5kgの頭を支える首に無理な負担がかかるような姿勢の悪さからくることが多いです。
例えば、編み物をするとき首の後ろを伸ばしてうつむく姿勢や、天井を掃除したり、棚の上段にある書物を取り出す作業で顎を上げて首の後ろを縮める姿勢では、首・肩の筋肉はいつも緊張し、その結果、血流が滞り、疲労物質が首・肩の筋肉内に留まり、「首筋のこり・肩こり」が起こります。
またVDT従事者のように、パソコンを使用する姿勢は特徴的で、キーボードを叩くときは前腕を支える首・肩・上腕の筋肉がいつも緊張していることからも起こります。
他に眼科的に多いのが、高齢者に多い瞼が下がっている(眼瞼下垂)場合で、瞼を挙げる手術をすると肩こりが治ることが多いことから、眼を開こうとして額の筋肉を絶えず使って首筋や肩が慢性的に凝っていると考えられています。
「首筋のこり・肩こり」を治す方法ですが、悪い姿勢をとる癖のある方はそれを是正し、また、筋力量が低下していると疲労物質が筋肉内に滞留しやすくこりが起こりやすいため、運動や体操を習慣化することをお勧めします。
激しい痛みに対しては、鎮痛剤を頓服せざるをえません。
症状が慢性的な方はある程度の服用期間を要するため、当院では血液循環を良くする内服薬や筋肉の緊張を緩和させる漢方薬を処方しております。
痛みを堪えるとこりが増強するという悪循環を断ち切るという目的で、これらの薬は一時的に効果がありますが、「首筋のこり・肩こり」の原因を取り除くことができないと再発することは多いです。