毎年の春と秋の学校検診で、「裸眼や眼鏡の視力が悪い、あるいは以前と比べて低下した」と
指摘された子供たちが保護者と共に来院されます。
眼科でも視力検査を行いますが、「裸眼視力」や「眼鏡視力」だけでなく、
矯正レンズを用いて測定する最良の視力「矯正視力」も検出します。
お子様の裸眼視力や眼鏡視力が悪くても、矯正視力が良ければ、近視や乱視(まれに遠視)などの屈折異常が悪化したと考えます。
もしも矯正視力が悪ければ、弱視の疑いが強く、他には眼球から視覚中枢までのどこかに病変がある可能性もあり、精査が必要です。視力検査が初めての新入生なら視力検査の不慣れかもしれません。
「以前に比べて視力が低下した」原因として多いのは近視ですが、なかには近視や乱視などの屈折異常や目の病気がないにもかかわらず視力が悪いことがありますが、そのほとんどが心因性視力障害で、思春期の女児に多いです。
お子様が近視であることを説明すると、保護者の方から「眼鏡を掛けると近視が進みませんか?」「近視の進行を止める方法はないですか?」とよく質問されますが、これまで根拠に基づいた回答ができませんでした。しかし今世紀になって近視に関する大規模な調査が行われ、近視の進行を抑えるための臨床研究が徐々に進みはじめ、これらの質問にも根拠に基づいて返答できるようになりました。
(こどもの近視Q&A)
これまで我々眼科医は近視がどんどん進行する子供への対処法として、その度ごとに眼鏡を処方するしかなく、近視の進行を抑えることは積年の願いでした。ようやく最近になって、近視の進行を抑える治療法として、1)オルソケラトロジー、2)低濃度アトロピン点眼、3)レッドライト治療、4)多焦点ソフトコンタクトレンズ、5)太陽光の下での戸外活動などが有効であることが確証されました。
直近では、6)太陽光に含まれるバイオレット光の働きから、クロセチンの内服が有効との報告があります。
子供の近視の進行を抑える治療法
当院では近視治療の効果が一目でわかるように、「Axial Manager」を導入しております。
・オルソケラトロジーとは
通常のコンタクトレンズは装用しているときだけ見やすいですが、オルソケラトロジー(以下、オルソ)では特殊なコンタクトレンズを就寝前に装用すると
・近視の原因と治療
屈折異常のない眼(正視)では、入ってきた光は角膜と水晶体で屈折し、網膜にピッタリと焦点が合います。角膜は透明な組織で、屈折力の3分の2を担う重要な働き
・オルソケラトロジーの治療の流れ
治療前に屈折検査と角膜形状解析を行います。この時にオルソケラトロジーの適応かどうかの判断をします。眼の病気がある場合は先にその病気を治療
・オルソケラトロジーの安全性・限界・制限
開発当初、オルソケラトロジーは通常のハードコンタクトレンズと比較して、1)特殊なデザインのレンズ装用、2)角膜形状の変化、3)就寝時装用の点で異なるため、
・オルソケラトロジーの費用について
オルソは健康保険の適応外ですので、いまのところ自由診療でありますが、医療費控除は受けられますのでご相談ください。
・オルソケラトロジーを子供にさせる不安とその実際
お母様ご自身が強度近視のため、メガネの不便さ、大変さをずっと感じいたそうです。子供にも同じ思いをさせたくないとの思いから、
・低濃度アトロピン点眼の効果と安全性について
濃度1%のアトロピン点眼は以前から眼科で小児の屈折検査に使用されていましたが、シンガポールで行われた研究により、近視の成り立ちとなる眼軸長の伸長を抑え、
・低濃度アトロピン点眼はどんな子供に有効なの?
上記のシンガポールの研究では、低濃度アトロピン点眼の有効性は、6~12歳の中等度(−6D)までの近視に対して2年間使って証明され、
・低濃度アトロピン点眼による治療は医師の裁量で行います
シンガポールの発表では、低濃度アトロピン点眼は近視進行抑制の効果があるにもかかわらず、眼軸長の伸長を抑える効果を認めなかったことで
・低濃度アトロピン点眼による治療費
来院当日は屈折検査を行い、保険診療になります。低濃度アトロピン点眼による治療をご希望される場合は低濃度アトロピン点眼1本と翌日の検査代、
・レッドライトの経緯
2014年に中国で偶発的に、赤色光(レッドライト)が眼軸の伸びを抑制する効果を持つことが発見されました。
・レッドライト治療デバイスと安全性
レッドライト治療に使用するデバイスは、30カ国以上で安全な医療機器として認可されており、全世界ですでに15万人以上の小児に使用されております。
・レッドライト治療の適応条件と禁忌
対象は3歳以上の近視で、どちらかの眼に屈折以外の眼球異常、あるいは視機能に影響する全身疾患がないこと。
・レッドライト治療の費用
レッドライト治療は自費診療のため、保険診療との併用はできません。詳しい内容はホームページでご確認ください。
・様々なタイプを持つ多焦点ソフトコンタクトレンズ
多焦点ソフトコンタクトレンズは、老眼で近くが見づらくなった世代に開発された遠近両用のコンタクトレンズであり、最近では長時間パソコンを操作する若い世代向け
・オルソケラトロジーとの違い
多焦点ソフトコンタクトレンズもオルソケラトロジーと同じく、装用すればメガネを掛ける必要が無くなりますが、オルソケラトロジーとは異なり、
・多焦点ソフトコンタクトレンズの適応年齢
しかし終日に装用するために、自分で装脱着ができないと緊急の対処ができなくて危険であり、小学生の低学年には処方が難しいです。
近視とは網膜より手前にピントが合っている状態です。
眼の前後方向の長さ(眼軸長)が伸びると、網膜よりさらに手前でピントが合うため、近視はさらに進行します。
当院ではお子様の近視の進行を抑える治療を行っておりますが、治療の効果を評価するには、お子様の眼軸長の伸びを測定し、未治療の場合に予測される伸びと比較するのが一番わかりやすいです。
小児の眼軸長解析ソフトウェア「Axial Manager」を光学式眼軸長測定装置(OA2000)に組み入れ、お子様の眼軸長の伸びを解析することで、今後の近視の進行を予測できるようになりました。また、グラフ化して文部科学省による児童生徒の近視実態調査のデータと比較することで、近視治療の効果を客観的に評価できるようになりました。
「Axial Manager」を導入することで、これまで説明しづらかった近視治療の効果を視覚的に把握でき、ご両親にも納得のいく説明をしたうえで治療を続けられるようになったと実感しております。
太陽光下での戸外活動が近視進行抑制に有効であることから、屋外環境にあって屋内にはないバイオレット光が注目されました。
太陽光に含まれるバイオレット光は屋内環境の白熱灯やLEDにはほとんど含まれておらず、窓ガラスや眼鏡レンズを通ることができません。このバイオレット光を網膜に取り込むと、近視進行抑制に働く遺伝子が発現しやすくなります。
サフランやクチナシの実に含まれる色素成分「クロセチン」を摂取してもこの遺伝子が活性化されることがわかり、「クロセチン」7.5mgを小学生に6ヶ月間投与したところ、眼軸長の伸長と屈折度数の近視化を抑制することが確かめられました。「クロセチン」の効果はまだまだ未知数ですが、当院でもこのサプリメントをご用意しておりますので、お子様の近視進行をなるべく抑えたいご両親は、お気軽にご相談ください。